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著作権侵害の話
2015年8月17日(月)
東京オリンピックのエンブレムや、トートバッグデザインの盗用事件が
世間で騒がれております。
私どもの業種に於きましても、同様なことが起こっており、困っているのですが、盗用された方(会社)の倫理観が欠如しているのでしょうね。
弊社で起きた例を示します。
1:温泉招き猫サンプル事件
東京の展示会にて、初めて「温泉招き猫」をお披露目した時の話です。
とある業者さんが来られ、お客様に紹介する為に、サンプルを1個貸して欲しいと要求されました。私共も試作品として数個作っただけでしたので、お断りしたのですが、どうしても、と、懇願され渡しました。
その3日後、弊社の製品を作っている工場から電話が・・・。
サンプルで渡した「温泉招き猫」を持った業者がやってきて、
「この品物を幾らで作れるか見積ってくれ」と、言っている・・・・。
呆れました。
2:恵比寿大黒事件
縁起物を扱うお店から、ポリレジン製の恵比寿と大黒を見せられ、
「おみくじ工房さんで、このような品物を作れますか?」と、尋ねられました。
一目見て、「それ弊社の商品ですよ。今は作っていないんですけど・・」
「底に直径10mmの穴が開いているでしょう。そこに巻いたおみくじを詰めるんです。」 と、
説明しながら底を見て驚きました。
穴が無いのです。
で、その方に聞いてみると、
「大阪の業者さんから、3年ほど前から仕入れているのだが、最近入ってこない。その為、作れる業者を探している」との事でした。
業者さんの名前を聞いてビックリ。
4年前に1回だけ取引した業者さんでした。
その時に、恵比寿さんと大黒さんを卸してるんです。
弊社が卸した品物を、そのまま中国へ送ってコピーされていたんです。
こんな話、まだまだありますが、おいおい話していきます。
さて、yahooの記事に、著作権侵害の話が掲載されておりましたので、
文章だけ引用します。
(2015年8月17日(月) 17時13分掲載)
トートバッグデザインパクリ事件で学ぶ著作権侵害の基礎
栗原潔 | 弁理士 ITコンサルタント 金沢工業大学客員教授
2015年8月17日 11時38分
佐野研二郎氏デザインとされるトートバッグの著作権侵害問題が大炎上しています。周知のように、結局、一部の商品の提供が中止されることになりました。
上記以外にも佐野氏や関係者のパクリを指摘するネットの声がありますが、そこでは、著作権侵害に相当しないものまで一緒くたに非難されているケースが見られます。皮肉な話ではありますが、今回のトートバッグが著作権侵害について学ぶ上でよい題材になると思いますので、これを使ってどういう場合に著作権侵害が成立するかについて見ていきましょう。
著作権侵害が成立するためにはざっくり言うと以下の条件が必要です(引用・私的使用目的複製等の著作権法上の権利制限規定はこの文脈では関係ないので割愛します)。
1. 元ネタが著作権を有する著作物であること
元ネタが著作物(思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの)でなければ著作権侵害にはなり得ません。気をつけなければいけないのは著作物ではないもの(たとえば、鳥)を写真に撮った場合、その写真は撮影者を著作者とする著作物になり得る点です。
なお、元ネタが著作物であっても著作権の保護期間が終了していれば、当然ながら、著作権侵害にはなり得ません。モナリザを題材に使ってコラージュをしても著作権侵害にはなりません(作者の名誉を汚すような使い方をする、他人の作品を自分の作品であると偽るというようなケースは問題になり得ますが、別論です)。
2. パクリ主が元ネタを知っていたこと(依拠性)
著作権は偶然の一致には及びません(この点で特許権や商標権とは異なります)。パクリ主が「見たこともありません」と言った時に「いや見たはずだ」と立証するのは困難ですが、元ネタがものすごく有名である場合、あるいは、偶然の一致ではあり得ないデッドコピーである場合には元ネタへの依拠性があるとされてもしょうがないでしょう。
3.元ネタに類似していること(類似性)
創作性がある表現が共通しているということです。類似性の問題はグレーになりがちですが、デッドコピーであればブラックと言えます。
ここで注意したいのは類似部分がアイデアであれば著作権は及ばないという点です。「著作権は表現を保護するものでありアイデアを保護するものではない」は大前提です。また、共通部分が、選択肢が少なくそのように表現せざるを得ない定型的部分だけであれば、創作性の発揮のしようがありませんので、著作物としての類似性は否定されます。共通部分があるから即著作権侵害とは言えないという点に注意が必要です。
4.元ネタの著作権者の許諾がないこと
元ネタの著作権者が許諾していれば著作権侵害にはなりません。典型的なケースは素材写真を所定料金を払って使っているケースやロイヤリティフリーの素材を条件に従って使っているケースです。
ではトートバッグの具体的事例を見ていきましょう。上記の4.は関係ないと仮定します。画像は2ちゃんねるで広まっているもの(作者不詳)、および、黒猫の写真のみ他ブログサイトからの(著作権法32条に基づく)引用です。
まず、取下げられた方の事例の一部です。
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元ネタは海岸にあるような立て札をモチーフにしていますが、わざと下手にした感じなどデザイナーの個性が表われており著作物と言えます。本件は画像のデッドコピーであり、当然に元ネタの作者の個性も含めてコピーされていますので著作権侵害は否定しがたいと思います。FNNニュースによれば、元ネタ作者(Ben Zaricor氏)は、結構怒っており法的手段も検討しているとのことです。
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個人が撮影したパンの写真です。これもデッドコピーに近いので依拠性と類似性は否定しがたいでしょう。問題は、パンの写真の著作物性ですが、前回書いたように著作物とされる可能性は十分にあるでしょう。
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プールで泳ぐ女性のイラストです。水面に浮かぶ女性とプールの底の影だけを描くという手法そのものはアイデアに過ぎないですが、脚部分がトレースされているようで、依拠性、類似性共にかなりグレーだと思います。同じくFNNニュースによれば、元ネタ作者(Geoff Mcfetridge氏)は、「とんでもないこと」としつつ、法的手段を取るまでには至らないと述べているようです。
次は取り下げられなかった方です。
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黒猫が半分だけ顔を出しているという構図はアイデアと言えます。表現としてはそれほど似ていない(というか黒猫をシンプルなイラストにするとこういう感じにならざるを得ない)と思いますので著作権侵害的には一応クリアーでしょう。ただ、この元ネタ作品は結構有名なので(私の家にもあります)アイデアを模倣すること自体がモラルとしてどうかという問題はあります。実際、元ネタ作者は法的手段に訴える意思はないものの、「『この流れのなかで、まだ一部分しか認めない(注:一部しか商品を取り下げなかったこと)という佐野さんの認識は少しご自身に甘いようにも思えます』と苦言を呈した」そうであります(参照記事)。
画像
スイカの絵です。スイカを一口かじった構図は(比較的良くある)アイデアですし、定型的な表現を除くと似ている要素はあまりないので著作権的には問題ないと思います(もちろん、今後デッドコピーに近い元ネタが発見されれば別です)。
全部検証している時間がないですが、やはり、ブラックなもの、あるいは、グレー度が高いものを取り下げて、それ以外は残したのだなあという感触です。
ここでは著作権の問題だけを論じましたが、当然ながら、著作権侵害でなければ何をしてもいいのかというとそんなことはなく、モラルや業界ルール的な不文律も考えなければいけません。これもグレーゾーンがある話で人により考えは異なるでしょうが、私見では上記のクロネコは著作権的にはOKだがモラル的にはアウト、スイカは著作権的にもモラル的にもOKなんじゃないかと思います。
また、モラルの問題としては、一部商品に問題があった場合に、その商品だけ取り下げればすむのか(キャンペーン全体としてやめるべきではないか)という議論もあるかと思いますが、これは著作権とは直接関係ない話なので、私としては特にコメントしません。
さらに、パブリシティ権(有名人の名前や写真・似顔絵等を勝手に使った場合等)が問題になるケースもあるかもしれませんが、長くなるので割愛します。また、オマージュ、パロディをどう扱うべきかの議論もありますが、これまた長くなるので別途。
ということで、今回の件に限らず、今後著作権侵害疑惑をネットで指摘する際には、上記の点を念頭に置いて考えるとよいのではないかと思います。
栗原潔
弁理士 ITコンサルタント 金沢工業大学客員教授
日本IBM、ガートナージャパンを経て2005年より現職、弁理士業務と知財/先進ITのコンサルティング業務に従事、『ライフサイクル・イノベーション』、『オープン・ビジネスモデル』等ビジネス系書籍の翻訳経験多数 IT系のリサーチ、コンサルティングに加えてスタートアップ企業や個人の方を中心にIT関連特許・商標登録出願のご相談に対応しています。